AKM のオーディオルームから、音作りの秘密に迫る
2024 年 12 月
オーディオマイスター解説 #03
新横浜に AKM のオーディオルームを新しく作られるとともに、2 つの新しいスピーカーが導入された。これらのスピーカー導入にあたっての思いをオーディオマイスター佐藤さんに伺った。
オーディオマイスター 佐藤友則 Tomonori Sato
旭化成エレクトロニクス株式会社 マーケティング&セールスセンター
1998 年、旭化成に入社。入社当初よりオーディオ用 IC の開発に携わり、世界に先駆けて 32 ビット DAC および ADC を企画。2009 年に旭化成エレクトロニクスのオーディオマイスターに就任、以降 VELVET SOUND シリーズとして AK4490 / AK4497 / AK4499 などの DAC チップを世に送り出し、多くのオーディオ機器に採用されている。音質チェックには、アルゲリッチやクレーメルの共演による 1988 年フィリップス盤『サン=サーンス:動物の謝肉祭』などを使用。趣味は自作スピーカーの製作で、自作エンクロージュアをフォステクスの限定ユニットで鳴らしている。
◆ 本日は、AKM のオーディオルームにあるスピーカーについて詳しくお聞かせください。
まず、どのような背景でこの 2 つのスピーカーを選定・導入したのでしょうか?
私たちが大切にしているのは、私たちの開発した製品が提供する音質を正確に評価し、お客様に伝えることです。私たちが製品の音質評価を行う際は、必ず何かのリファレンスに対しての相対評価を行うのですが、そのためには、製品の音質を素直に引き出せるスピーカーが必要でした。そこで、フォスター電機株式会社 フォステクスカンパニー様のバックロードホーン(BH)スピーカーと 2way バスレフスピーカーを選定しました。
◆どうしてこれら 2 つのスピーカーが最適だと判断されたのでしょうか?
BH スピーカーのほうからお聞かせください。
私たちの製品は非常に細かな部分まで音質調整を行っています。そのため、施した策が狙った通りになっているのか?という点を十分に評価できるスピーカーを求めていました。そこで、まず、フルレンジユニットを採用した BH スピーカーを選定しました。ここで重視したことは 2 つあります。
まず、電気・磁気回路のシステムがシンプルで、音質の相対評価における差を際立たせてくれる特性を持っていること。もう一つは、能率が高くてスピード感のある音を出せることでした。今回のユニットは 94.5dB (1m/1W) とかなり能率が高いものを使用しています。その結果、非常に小さな音の違いとスピード感を際立たせてくれるので、より精密な評価が可能になります。
加えて、システムがシンプルなので、ユニットの交換が容易で、スーパーツィーターの交換は特に簡単です。この点は後進の育成にも役立てられます。今後マイスターになる人には、私のリクエストする音質をユニットを交換して実現する試験を受けてもらおうと考えています。
◆ なるほど。評価と後進の育成が目的ということですね。
でも、一番の理由は私がフルレンジスピーカーの音が好きだからかもしれません。重たさよりも軽快な感じが好みだからです。
◆ では、2 way バスレフを選択したのはなぜでしょうか?
BH スピーカーは一般的なオーディオ鑑賞用途のスピーカーとしてメジャーとは言い難く、その音に慣れていないお客様もいらっしゃいます。そのため、マルチウェイのスピーカーも準備することとしました。今回のBHの音質は分析的な傾向があるかもしれません。一方でもう少し音楽的に楽しみながら聴けるものとして肩ひじ張らない、リラックスして聴けることも考慮しました。
今回選定した 2way バスレフスピーカーは非常に高精細な音場表現が得意なものを選定しています。また、スピーカーはそれなりに重さがありますので、これらの 2 種類のスピーカーを容易に交換設置できる点も選定の上での重要な要素の一つでした。こういった私たちの要望を フォスター電機株式会社 フォステクスカンパニー様(以下フォステクスカンパニー)に相談しながら選定しました。
◆ フォステクスカンパニー様とのコラボレーションについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
彼らは、私たちが目指す音作りにおいて良いパートナーです。もともとフォステクスカンパニー様の製品をプライベートでも使用しているメンバーが多く、その品質の高さや調整のしやすさには定評があります。彼らのスピーカーの使いこなしやメンテナンスに関するノウハウを惜しみなく提供してくださり、私たちの知見も広がりました。特に、BH スピーカーに関しては、制作過程からかかわることができたのは貴重な経験でした。この経験を通じて、製品評価の重要な側面である物理的な振動対策の必要性も再認識しました。
バックロードホーン Speaker のエンクロージャーボックスの制作過程
◆なるほど、音響システム全体を考慮した上での評価が行われているのですね。 今後の展望についてお聞かせください。
今後もオーディオルームを活用し、AKM 製品の感性評価を徹底的に行っていく予定です。私たちは常にお客様に高品質の製品を提供することを目指しております。今後の新製品にもぜひご期待いただきたいですね。