旭化成エレクトロニクスの新しいオーディオルームへようこそ!
2024 年 12 月
オーディオマイスター解説 #02
旭化成エレクトロニクスのオーディオルーム
今年 6 月、私たちは開発拠点を新横浜に構え、その中に新しくオーディオルームを開設しました。
この空間では、VELVET SOUND が提供する試作品や製品の音質を実際に確認し、細部にわたってテスト・調整しています。
オーディオ製品の開発に携わる方はもちろん、オーディオ愛好家の方にも、その音質の深さを体感いただける場となっています。
オーディオルームの目的
VELVET SOUND は、「原音重視」という思想のもと、“ まるでそこにいるかのような ” 音の世界を目指しています。そのためには、ユーザーの皆様に音が届くまでの過程を理解することが必要だと考えており、オーディオ用半導体 IC の設計技術だけでなく、システムの設計から、オーディオ機材の選定、試聴環境の整備など、音質に関わる多岐にわたる知見とノウハウを積み重ねる努力を続けています。
その一環として、私たちは開発した製品を搭載したオーディオデモシステムを自社開発し、それを試聴し、私たちの理想とする音質を追求する環境を整えています。この度新設されたオーディオルームは、VELVET SOUND の製品を評価するための施設であり、私たちの音をユーザーの皆様に届ける過程の一つである音響空間について理解を深める場でもあります。私たちは、この特別な空間に来訪してくださった方々に、私たちが目指す音を体感し、” VELVET SOUND の世界観 ” を楽しんでいただきたいと考えています。
部屋のコンセプト
日本音響エンジニアリング様と協力しながら、調音材の配置と量を調整している様子。
今回の新横浜のオーディオルームは日本音響エンジニアリング (NOE) 様の協力を得ながら作成しました。経験豊富な NOE 様は私たちの希望の部屋を実現するためのノウハウを多く備えた良きパートナーです。彼らが私たちに最初に尋ねたのは「どんな部屋にしたいですか?」。それに対し、私たちは「ミュージシャンや演奏者の位置に近いような試聴環境」と希望しました。
以前に私たちが日比谷に設置していた旧オーディオルームは、コンサートホールの観客席に近いような試聴環境を目指して設計していました。ただ、低音の残響が長めの特性だったため、半導体 IC やデモシステムの設計を変えて試聴評価を行う際に、音響空間の影響が強く出すぎることがあり、IC やデモボードの設計をストレートに評価できる環境が欲しいと考えていました。そこで、音響空間の影響が少ない、ミュージシャンや演奏者の位置に近いような試聴環境を目指し、音響空間の調整を進めました。
音質を追求する過程での苦労
理想的なオーディオルームを作るためには、いくつもの試行錯誤がありました。一般的に部屋の調整で最も苦戦するのが低音域と言われていますが、例に漏れず私たちも低音域の調整に最も苦労しました。
まず、オフィスビルの中に後付けで設置するため、当然ながら、ビルの骨組みにまでは手を入れることはできませんでした。さらに、新横浜 ACT センターのオフィスコンセプトの都合により天井が低い 2F のフロアに設置せざるを得ず、天井の高さは約 240cmしか確保できませんでした。低い天井によって最も懸念されたのは、低音域の定在波が重なってできるブーミングですが、こちらについては NOE 様と相談の末、斜め天井を採用することによって定在波の影響を低減しました。
次にオーディオルームが完成して調音材である程度までは調整できた段階で、「確かに以前のオーディオルームと比べて残響特性は短く仕上がっていたものの、それでも低音の制御ができていない」 という大きな問題が残っていました。私たちが試聴に使用するリファレンストラックのひとつに、ホリー・コールの I can see clearly now (収録アルバム Don’t Smoke in Bed ) という曲があります。この曲はウッドベースの低い「ボン、ボン」という音から始まるのですが、このウッドベース音が「ボヨ~~ン、ボヨ~~ン」と締まりがなくモヤモヤと聞こえていたのです。ここでもまた、NOE 様と協力しながら、反射材や吸音材、拡散材の配置や量を大幅に見直して調整し、低音の改善を行った結果、心地よい「ボンッ、ボンッ」というウッドベースのリズムを楽しむことができるようになりました。
しかしながら、ここで新たな問題が発生しました。当初、NOE 様には正面の吸音パネルを床から 170cm 程度の高さで調整していただいていたのですが、どうしても見た目がよろしくない。そこで、見た目のデザインも考慮したいという思いから、吸音パネルを床から天井まで約 240cmで作成して設置したところ、高音域の残響が極端に短くなり、音像位置が後ろに下がってしまったのです。これは、低音域を吸音するために設置していた吸音材が、高音域の音まで吸音しすぎたことが原因でした。そこで活躍したのが拡散材です。拡散材と吸音材とを組み合わせて使用することによって、本来目的としていた低音域だけを吸音させ、残響の長さや音像位置の調整に成功しました。
1. 最初の状態。低音が「ボヨ~~ン」と長かった。
2. NOE 様と仮調整した後。低音が「ボンッ」と刻むように。
3. 完成形 音像位置と低音のリズム感を改善。
今後の展望
こうした紆余曲折の結果、理想的なオーディオルームを完成させることができました。ぜひ、この空間で、VELVET SOUND が提供する“まるでそこにいるかのような”音の世界を皆様に体感していただきたく思います。
私たちはこのオーディオルームを活用して製品の試聴評価に取り組み、さらなる高品質な製品の開発を進めてまいります。お客様に満足いただける新製品をお届けする準備が整っていますので、今後のリリースにご期待ください。
オーディオマイスター 佐藤友則 Tomonori Sato
旭化成エレクトロニクス株式会社 マーケティング&セールスセンター
1998 年、旭化成に入社。入社当初よりオーディオ用 IC の開発に携わり、世界に先駆けて 32 ビット DAC および ADC を企画。2009 年に旭化成エレクトロニクスのオーディオマイスターに就任、以降 VELVET SOUND シリーズとして AK4490 / AK4497 / AK4499 などの DAC チップを世に送り出し、多くのオーディオ機器に採用されている。音質チェックには、アルゲリッチやクレーメルの共演による 1988 年フィリップス盤『サン=サーンス:動物の謝肉祭』などを使用。趣味は自作スピーカーの製作で、自作エンクロージュアをフォステクスの限定ユニットで鳴らしている。