ヴァイオリニスト 樫本大進、
最新の “VELVET SOUND” を聴く
2020 年 3 月
ありのままの音色と空気感を再現する、
旭化成エレクトロニクスのセパレート型 DAC チップ
掲載元/「ステレオサウンド」No.214 (2020年3月発行)
旭化成エレクトロニクス (AKM) が展開する DAC チップ “VELVET SOUND” シリーズに初のセパレート型、AK4498+AK4191 がラインナップされる。今秋以降、デジタルオーディオ機器各種に実装される見通しだ。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第1コンサートマスターにして AKM 公式ブランドアンバサダーも務める樫本大進氏は、この最新型 VELVET SOUND の音をどのように受け止めるのか。AKM オーディオマイスターの佐藤友則氏とともに、ベルリン・フィルの最新録音を聴いていただいた。
佐藤友則:
生の演奏と録音された演奏の違いを意識されることはありますか?
樫本大進:
基本的に両者は別ものだと考えています。録音はマイクロフォンの種類や設置方法、ケーブルの違いなどで傾向が変りますし、再生環境も聴き手次第です。しかし演奏家の立場からすると、その違いが小さなものであってほしいと常々思っています。
佐藤:
AK4498+AK4191 は、本来1枚の DAC チップが受け持つ D/A 変換処理を2枚のチップに分担させることで音質の向上を図った、我々にとって初となるセパレート型 DAC チップです。音の力強さや S/N 感の向上により、実際の演奏と録音物の差を埋めることを目指しました。今日はこの AK4498+AK4191 (のプロトタイプ) を弊社試聴室のリファレンス機器に組み込み、ベルリン・フィルの最新録音を聴いていただきましたが、いかがでしたか?
樫本:
《悲愴》※の第一楽章は、とても静かにはじまります。この静寂感をていねいに表現することが再生の肝になるのですが、いまの再生は録音当日のコンサートホールの雰囲気をありありと思い出せるほどリアルで感心しました。ホールやスタジオの空気感も演奏を形づくる大切な要素ですから、空間再現性に優れたオーディオは演奏家のモチベーションを高めてくれるだけではなく、聴き手の感動をより大きなものにしてくれるのではないでしょうか。
佐藤:
オーディオの世界では「まるでそこにいるかのような音」という表現がよく用いられます。それを実現するために重要なのは「音の出はじめ」の再現性の高さだと我々は考えているので、そう言っていただけるのは嬉しいです。
樫本:
もうひとつ感心したのは、音色の美しさです。音色は私にとって譲れない部分ですが、実際に演奏している時に自分が聴いている音色との差がこれほど少ない再生は初めてかもしれません。ひとつひとつのフレーズに込めた思いや色彩感が重なり、厚みや深みの感じられる音色になっていました。
佐藤:
生の演奏を忠実に再現するため、我々は原音重視という基本コンセプトのもと D/A 変換の技術向上に取り組んできました。そこには、より録音現場に近い A/D 変換の分野で培ってきたノウハウも活かされていると思います 。
樫本:
先ほど「生の演奏と録音された演奏は別もの」とお話ししましたが、違いとして大きいのはこの2点だと私は思います。楽器の音色と録音現場の空間の再現性。それらが高い次元で達成されている。録音物として作品を残す場合、私は普段よりも、演奏の輪郭がよりクリアになるように心がけて演奏をしています。それはコンサート会場では伝わるニュアンスが、CD になると伝わりにくくなるという経験を何度かしているからです。しかし、これだけありのままの音色と空気感が再現されるのなら、そういった配慮は不要になりますね。
佐藤:
最終的に音を聴き手に届けるのは、私たちのお客様であるオーディオ機器メーカーさんと考えています。我々の使命はその個性や味付けを最大限に引き出せるよう、最高の素材を提供することだと考えています。
樫本:
再生技術の進歩により、オーディオがこれまで以上に演奏家と聴き手の距離を縮めてくれる存在になる。それを実感できる貴重な時間でした。ありがとうございました。
※試聴した音源 チャイコフスキー: 交響曲第6番 ロ短調《悲愴》作品74』より 第1楽章/キリル・ペトレンコ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
同社の最新 DAC チップ AK4498 の前段に、D/D コンバーターの役割を果す AK4191 を配置してセパレート構造としたのが AK4498+AK4191 の大きな特徴。従来は1チップでデジタル信号からアナログ信号へのすべての変換処理を行なうことが可能だが、AK4191 にデジタル領域での処理を分担し、デジタル、アナログをセパレートすることで、力強さや聴感上の S/N 感が向上したという。今回は同社試聴室のリファレンス機器であるエソテリックの SACD/CD トランスポート、Grandioso P1X に AK4498+AK4191 をマウントした試作 D/A コンバーターを組み合わせて試聴を行なった。
プロフィール
ヴァイオリニスト 樫本大進 Daishin Kashimoto
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 第1コンサートマスター
1979年ロンドン生まれ。3歳でヴァイオリンをはじめ、ニューヨーク移住後7歳でジュリアード音楽院プレカレッジに入学。1990年に11歳でリューベック音楽院に特待生として入学。第4回バッハ・ジュニア音楽コンクールをはじめとする5つの権威ある国際コンクールで優勝。マゼール、小澤征爾、ヤンソンス、チョン・ミョンフンら、多くの著名指揮者と共演し、2010年にベルリン・フィルの第1コンサートマスターに31歳で正式就任。ソリストとしても幅広い演奏活動を行なっている。使用楽器は1674年製のアンドレア・グヮルネリ。現在はドイツ在住。
オーディオマイスター 佐藤友則 Tomonori Sato
旭化成エレクトロニクス株式会社 マーケティング&セールスセンター ソリューション開発第一部
1998年、旭化成に入社。入社当初よりオーディオ用 IC の開発に携わり、世界に先駆けて32ビット DAC および ADC を企画。2009年に旭化成エレクトロニクスのオーディオマイスターに就任、以降 VELVET SOUND シリーズとして AK4490/AK4497/AK4499 などの DAC チップを世に送り出し、多くのオーディオ機器に採用されている。音質チェックには、アルゲリッチやクレーメルの共演による1988年フィリップス盤『サン=サーンス:動物の謝肉祭』などを使用。趣味は自作スピーカーの製作で、自作エンクロージュアをフォステクスの限定ユニットで鳴らしている。
About VELVET SOUND
VELVET SOUND は、AKM オーディオデバイスのブランドです。
「原音重視」という思想のもと、あらゆる角度から追い込み作り出されたテクノロジーを駆使し、あますことなく全てを表現した”まるでそこにいるかのような”音の世界をお届けします。
* VELVET SOUND ™ 、VELVET SOUND | VERITA ™ は、旭化成エレクトロニクス株式会社の商標です。
velvetsound.akm.com
by ASAHI KASEI MICRODEVICES